ノイズキャンセリングの仕組みは、外音を測って逆位相の信号を生成し、耳に届く前に打ち消します。WH-1000XM6のQN3はこの計算を担うプロセッサーで、LDACは音楽データを届けるコーデックです。役割が別なため、片方のスペックがもう片方の性能に直接影響するわけではありません。

WH-1000XM6を構成する四つの層

WH-1000XM6のシステムは、四つの層に分かれます。

一層目がマイクです。12基のうち6基がNC用、残り6基が通話用として割り当てられています。各マイクの配置や個別の寄与度は公開仕様に記載がありません。

二層目がQN3プロセッサーです。マイクが拾った環境音を処理して逆位相の信号を生成し、ドライバーから流すことで外部音と干渉させます。これがANC(アクティブノイズキャンセリング)の仕組みです。

三層目が30mmドライバーです。音楽信号とQN3のキャンセル信号を合わせて出力する部品で、ノイズキャンセリングの性能を直接決める要素ではありません。

四層目が通信経路です。Bluetooth 5.3による無線と3.5mmジャックによる有線の両方に対応し、LDACやLC3はこの層に属します。ノイズキャンセリングとは独立した仕組みです。

QN3とマイクが担うノイズキャンセリングの流れ

QN3と「7倍」という数字が意味すること

ソニーはWH-1000XM6のQN3を「QN1比で約7倍の処理能力」と説明しています。

「処理能力が7倍」とは、チップの演算リソースの比較です。前世代のWH-1000XM5が搭載していたQN1から、処理リソースが大幅に増えたことを意味します。処理能力が増えると、環境音の解析精度向上や逆位相信号の生成速度改善、複数マイク入力の同時処理といった改善が可能になります。

ただし、「処理能力が7倍」は「ノイズ低減量が7倍」ではありません。ソニーは周波数帯域ごとのdB低減値を公表しておらず、AV Watchなどの第三者レビューと照合しても、電車・航空機・室内など騒音別の定量比較データは公開されていません。「QN1比7倍」はメーカーが示す内部スペックの値で、遮音の体感差を保証する数値ではないのです。

WH-1000XM6にはAdaptive NC Optimizerがあり、装着状態と周囲環境を検知してNC設定を自動調整します。メガネのフレームなどでイヤーパッドの密着が下がっている場合でも補正が入りますが、この補正の定量データは公表されていません。

音質はドライバーだけで決まらない

WH-1000XM6が対応するコーデックはLDAC、LC3、AAC、SBCです。このなかでLDACは最大990kbpsのビットレートで送受信できるソニー独自のコーデックです。

LDACはAndroid端末とLDAC対応アプリの組み合わせで利用できます。iPhoneはLDACに対応していないため、接続するコーデックはAAC止まりです。音質面でのLDACの恩恵は、Android環境が前提になります。

LC3はBluetooth LE Audioで使われるコーデックです。WH-1000XM6はLC3に対応しており、WH-1000XM5にはなかった機能です。LC3は、送信側のデバイスもLE Audio対応であることが前提になります。

有線接続は3.5mmジャックで行えます。ただし有線接続中は本体マイクによる通話が使えません。音楽再生はできますが、ビデオ通話を有線経路で行う運用には向きません。

WH-1000XM5との仕様差

WH-1000XM5とWH-1000XM6の主な仕様の違いです。

WH-1000XM5とWH-1000XM6の仕様比較

項目WH-1000XM5WH-1000XM6
NCチップQN1 + V1QN3
マイク数8基12基(NC用6基・通話用6基)
Bluetooth5.25.3
対応コーデックLDAC / AAC / SBCLDAC / LC3 / AAC / SBC
折りたたみ非対応対応
重量約250g約254g
価格参考:旧定価44,000円前後59,400円(税込)

QN1とV1のデュアルチップ構成が、単一のQN3に統合されています。マイク数は8基から12基に増え、LC3対応と折りたたみ機構が追加されました。重量は約4g増えています。

遮音性能がどれだけ改善したかは、ソニーが騒音別の公式比較値を公表していないため、スペック表だけでは判断できません。PC Watchなどの接続関連レビューと照合しても、Bluetooth 5.3への更新が接続安定性にどう影響するかは送信機器やOSの環境次第で変わるとしており、環境を問わない一律評価が難しい状況です。

買い替えで何を見るか

WH-1000XM5をすでに使っている場合、遮音性能の体感・折りたたみの有無・LC3対応の送信側環境・通話の使い方の四点を分けて評価するのが現実的です。

折りたたみが必要な場合、WH-1000XM6は明確な選択肢になります。ケースの厚みが減り、カバンへの収まり方が変わります。LC3については、送信側デバイスがLE Audioに対応していない現状では、すぐに使える環境が限られます。

新規購入の場合、スマートフォンがLDACに対応しているかどうかが最初の判断点になります。iPhoneユーザーはLDACを使えないため、その部分の恩恵はありません。有線接続中は本体マイクが使えないため、通話を多用する用途では有線運用は成立しません。

個人的には、この価格帯でLC3とBluetooth LE Audioへの対応を先取りした設計は、LE Audio普及後に改めて活きてくる判断だと思っています。WH-1000XM5の遮音に不満がなければ、LC3の送信側環境が整うまで買い替えを急ぐ理由は薄いと判断しています。

情報ソース

  • Sony WH-1000XM6 製品仕様ページ(ソニー公式)
  • Sony WH-1000XM5 製品仕様ページ(ソニー公式)
  • AV Watch WH-1000XM6 関連記事(照合用)
  • PC Watch Bluetoothコーデック・接続関連記事(照合用)
  • Bluetooth SIG(LE Audio / LC3 仕様概要)
  • Sony LDAC 技術概要(ソニー公式)