Insta360 X5は標準版が79,800円で、360度動画を最大8K30で撮れる。パッケージに躍る8Kの二文字を見て、正面の映像までくっきり仕上がる絵を想像した人も多いんじゃないか?

旅行やバイクで回しっぱなしにしたくて、今まさにカートに入れかけている人がいちばん危ない。8Kが何を指す数字なのか知らずに買うと、編集アプリを開いた夜に首をかしげることになる。

数字だけ大きく刷って、中身の意味は小さくしか語らない。

この売り方が僕はいちばん腹立たしい。

8Kは球面全体の数字

本文図解1

この機種は前後2つのレンズで周囲をまるごと記録する。8Kという解像度は、全周の球面に広げた絵の大きさを表している。

スマホで見る横長の映像は、球面から一部を切り出したものになる。切り出す範囲が狭いほど、使える画素も減っていく。

正面の絵に回ってくる画素は、8Kのほんの一部しかない。

じゃあ8Kは飾りなのか?

全周を高い解像度で残しておくから、あとで好きな向きを切り出しても絵に余裕が残る。撮る瞬間にカメラを向けなくて済むのが、360度カメラのいちばんおいしい部分だろう。

僕もバイクで回しっぱなしにして、帰ってから画角を決め直した。走りながら横目で見た景色を、編集で正面に持ってこられた時は素直に笑った。

ただし撮影後の仕事はまるごと残る。

リフレームして、書き出して、保存する。8K素材は重たく、スマホの空き容量とmicroSDをどんどん食っていく。構図を後回しにした代金は、編集の時間で払うことになる。

レンズを割っても止まらない

本文図解2

X5のレンズはユーザーが自分で交換できる。別売りの交換レンズを用意しておけば、傷を付けても本体を修理に送らずに済む。

このカメラの本命は、実はレンズのほうなんじゃないか?

360度カメラは本体の前後にレンズが丸く飛び出している。地面に下ろしただけで擦れるし、スキーやバイクで転べば真っ先に削れる部品でもある。

旅先でレンズに傷が入ったら、本体を送り返して撮影を止める。前の世代のX4までは、その流れしか選べなかった。

交換式は画質を盛る飾りとは違う。撮影を止めないための保険だ。

もちろんタダでは済まない。交換レンズの部品代がかかるし、付け替えたあとはレンズ面の汚れや防水の状態を自分で確かめる責任も付いてくる。予備バッテリーやmicroSDまで足すと、本体価格だけで終わる買い物にはならないはずだ。

夜と240分の数字

本文図解3

低照度向けのPureVideoは、暗い場所の見え方を持ち上げる処理モードだ。夕方の街や室内で撮ると、前の世代から一段明るい絵が出てくる。

でも歩きながら撮ると、動きのブレとノイズはしっかり残った。

暗所が明るくなっただけで、夜が昼になるような顔をする宣伝文句にはムッとする。照明と被写体の動きで結果が変わるモードなのに、万能感だけが先に立っている。

最大240分という電池の数字も同じ匂いがする。解像度を5.7Kに落とした時の値で、8K30で4時間回せる意味にはならない。

8K30で一日回す日は、予備バッテリーの出番になるだろう。

数字が大きいほど、どのモードで測ったのかを隣に大きく書いてほしい。

X4持ちと単眼派の分かれ目

本文図解4

X4も最大8K30で撮れる。最大解像度の欄だけ並べても、買い替えの差は何も見えてこない。

増えるのは交換式レンズと暗所処理の改善の2つだ。レンズを一度でも削って修理を待ったX4持ちなら、差額を払う理由は十分ある。暗い場所をほとんど撮らない人なら、急いで替えても得るものは薄い。

そもそも撮影後の編集が面倒な人には、360度カメラ自体が合わない。正面だけ撮れれば満足なら、最初から構図を決めて撮る単眼のアクションカメラが候補になる。

君ならどっち買う?

帰宅後にアプリで画角をいじる時間を楽しめるかどうかで、答えはほぼ決まると思う。

79,800円のうち、僕が設計の代金として納得できるのは全周を残す仕組みとレンズを自分で替えられる作りの部分になる。8Kという数字に乗っかった期待の分には、1円も払いたくない。

カメラを向けずに撮りたい人と、レンズを削る場所へ持ち出す人。この2人にとってX5は、撮影中の迷いと修理の待ち時間を、帰宅後の編集作業と引き換えに消してくれるカメラだ。

出典