AIの推論処理は、演算チップと同じくらい、データを高速で送受信するメモリの性能に依存します。そのメモリを国内で製造する唯一の拠点が今年、大規模な拡張に踏み出しました。
🏗️ 着工は2026年7月4日、装置搬入は2028年後半
Micronは7月4日、広島県東広島市の広島工場で新建屋の着工式を開催しました。投資総額は約1兆5,000億円。現在、日本でDRAMを量産しているのはこの拠点だけです。
第一期工事の面積は約30万平方フィート(約2万8,000平方m)で、製造装置の搬入は2028年後半の予定です。建屋が完成してから装置の搬入・立ち上げを経て量産になるため、本格稼働はさらに先になります。
経済産業省は設備投資向けに5,000億円、研究開発向けに530億円を交付する方針を決定しています。投資総額の約3分の1に相当する公的支援です。
🧠 GPUの隣に積み上げる、AIの処理を支えるメモリ
AIのデータセンターでは、GPU(演算チップ)のすぐ隣にHBM(高帯域幅メモリ)を積み上げて使います。大規模モデルの推論では一度の処理で数GBから数十GBのデータを扱い、それを送受信する帯域幅がGPUの実際の処理速度に直結します。
広島工場はすでに「1γ(ガンマ)ノード」の技術を使ったHBM4の量産を開始しています。前世代の1β(ベータ)ノードと比べて電力効率が20%、メモリ密度が30%改善しているとのことです。同じ電力・同じ実装面積で扱えるデータ量が増えます。
今回の新建屋で増産を予定するHBM4の最新世代は、2.8TB/s超の帯域幅を持ちます。前世代のHBM3Eと比べると2.3倍の帯域で、AIデータセンターが次に必要とする性能水準に届きます。
🌐 日本唯一のDRAM拠点の意味
広島工場で使われる素材の約80%が国内企業から調達されているとMicronは説明しています。DRAMの国内製造拠点を持つことは、供給途絶のリスクを分散する効果があります。
ただし、Micronは米国・台湾・シンガポールにも製造拠点を持っており、広島工場はグローバルな製造体制の一部です。消費者が国産メモリを優先的に入手できる仕組みがあるわけではなく、サプライチェーンの一拠点として機能するという理解が実態に近いです。
経済安全保障の観点と、日常のPC・スマホへの影響は、別の話として整理しておくのが妥当です。
📱 AI PCとスマホへの波及、影響は数年先
製造装置の搬入が2028年後半の予定である以上、PC・スマホのメモリ価格や供給への影響が出るのは、早くても2028年以降です。
長期的に見ると、AI PCのDRAM、スマートフォンの内蔵メモリ、クラウドAI向けHBMのそれぞれで、供給量と価格形成に影響が及ぶ可能性があります。ただし、新建屋の装置搬入は2028年後半予定です。読者が店頭で買うPCやスマホの仕様に反映されるまでには、さらに時間差があります。
今回注目したいのは、HBM4の帯域幅が前世代比2.3倍に広がる点です。クラウドAIの応答速度や電力コストは、GPUの世代だけで決まりません。メモリ側の帯域幅と供給能力が増えることで、2028年以降のAIサービス基盤は処理能力と運用コストの両面で変化していきます。

