オーストラリアの郊外でアンテナ表示が消えたとき、はぐれた友達に「先に駐車場へ戻る」と一言送れるだろうか?
ドコモが10月23日、Starlink Directの海外対応国にニュージーランドとオーストラリアを足した。アメリカ、フィリピン、カナダと合わせて5カ国になる。年末にドコモ回線のスマホを持って南半球へ飛ぶ人には、ちょうどいいタイミングの拡大に見える。
見えるだけで終わる人が絶対に出る。
月額無料で申込も要らない。そう聞いて何もせず空港へ向かうと、圏外の荒野でスマホは黙ったままになる。対応機種とOSと設定のどれか1つが欠けただけで、衛星はこちらを相手にしてくれない。
想像して背筋が冷えた。
無料の二文字に油断して、準備ゼロで出国する自分の姿がはっきり浮かんだからだ。
2カ国増えて5カ国に
報道ベースの集計で対応端末は48機種。Galaxy、iPhone 13以降、Pixel 9〜11が並ぶ。
数字だけなら派手に見える。
ただし48機種は5カ国共通の台数と決まったわけじゃない。対象表は国ごとに分かれていて、自分の機種名が渡航先の欄に無ければ一円の価値も生まれない。
国ごとに相乗りする現地の携帯会社も違う。オーストラリアならTelstra、ニュージーランドならOne NZの衛星エリアに乗る形になる。オーストラリアは一部地域がエリアの外にあるので、国に着いただけで安心とはいかない。
5カ国という数字は入口の札でしかないと思う。
無料なのはどの部分?
ahamoを含むドコモの全料金プランで月額無料、申込も不要になっている(一部プランは対象外)。SMSは国内宛ても国際宛ても無料で、対応アプリの通信は契約中のデータ容量を減らさない。
素直にありがたい。
でも無料なのは衛星経由の文字と対応アプリの通信まで。通常の海外ローミングがタダになる話は一言も出てこない。
しかもWORLD WINGの対象エリア内では、Starlink Directそのものが使えない。地上の電波が届く場所は普通のローミングの担当になり、衛星は電波が切れた外側だけを受け持つ。
海外にいる間ずっと衛星につなぎっぱなしにできると思っていた人、結構いるんじゃない?
じゃあ月額ゼロのサービスで、設計に払う分はいくらなのか? 答えはゼロで、代わりに払うのは自分の準備の手間になる。お金を取らない代わりに、宿題をきっちり押し付けてくるサービスと言っていい。
申込不要でも宿題は山盛り
iPhoneはiOS 27.0以降が必要になる。Androidも最新ソフトウェアへの更新が要り、Wi-Fiで更新したあとにキャリアアップデートが別に来る場合もある。
そのうえで、Starlink Directの利用設定とデータローミングの設定が必要になる。対応アプリも最新版へ更新しておく。
申込不要という言葉の裏で、スマホ側の宿題はまるで減っていない。出発ロビーでOS更新を始めて搭乗口までに終わらなかったら、機内で天井を眺めるしかないだろう。
ソフトバンクも9月末に海外対応を始め、10月に端末を2回追加した。あちらは追加料金なしでも世界対応ケータイへの加入が要るので、手続きの軽さはドコモが一歩前にいる。各社が足し算を続けている以上、対象表はこの先も書き換わるはずだ。
電話がつながらない空
衛星とつながるのは、遮るもののない屋外だけになる。屋内も地下も車内も、木が茂った山道も衛星からは見えない。
そして音声通話はできない。
緊急通報の代わりにもならない。
「つながる」と聞いて電話まで想像した時点で、期待は崩れる。届くのは短い文字と対応アプリの通信までで、救助を呼ぶ電話は別の手段で確保するしかない。
5カ国48機種の数字に浮かれる話じゃなく、圏外で一言を通す細い非常口として持っていくサービスだと僕は判断する。通話の手段を別に確保し、出発前夜に更新と2つの設定を済ませた人のスマホだけが、圏外の空の下で「無事」と打てる。




